注目度がますます上がってきているデザイン思考。

「名前は聞いたことがあるけど…実際、何?」

「社員の人たちにどうやって浸透させればよいのか?」

と悩んでいる経営者の方も多いでしょう。デザイン思考は、デザイナーが行う認知・思考プロセスを使って、ビジネス上の解決策を考える手法です。ユーザーの視点に立って自社が提供するサービスやプロダクトの本質的な課題やニーズを明らかにし、ビジネス上の課題を解決するための役立つフレームワークになります。そこで、当記事ではそのフレームワーク・プロセス、さらにはビジネスで活用することのメリットと実践プロセスを解説していきます。

そもそもデザイン思考とは

デザイン思考は、デザインに関する思考プロセスを使って、ユーザー視点で課題を見つけていく方法です。

ここでのデザインとは、ただ作るだけを意味するのではありません。作る前のコンセプト設定から、制作過程におけるルール設定まで、デザイン業務に関する全体を指します。

デザイン思考の特徴

デザイン思考は、デザイナーが行う認知・思考プロセスを使って、ビジネス上の解決策を考える手法です。

デザイン思考の特徴は、デザインの思考過程を使ったビジネスのマインドセットにあります。そのため、「デザインに関する手法ではない」という点をしっかりと理解することが重要です。そして、ユーザー視点に立つのが何よりも重要となります。

注目され始めた理由

デザイン思考が注目され始めた理由はいくつかあります。その一つが市場構造の多様化です。多様化になっているため、企業がターゲットユーザーのニーズを捉えるのが難しくなっています。そして、インターネットが当たり前になりつつある日常において、情報も拾いやすくなっているため、ユーザー自身も「自分に本当に必要なものは何か」が分かりづらい状況に陥りやすくなっています。

そのため、企業に必要とされることが、「これまでの常識にとらわれない思考の枠組み」です。ユーザーが、商品自体よりも商品の購買体験に価値を置くようになったため、本当の意味での柔軟性に富んだ思考が必須となっています。

類似・関連する思考法それぞれ

デザイン思考と類似・関連する思考法として、次の3つがあります。

  1. アート思考
  2. クリティカルシンキング
  3. ロジカルシンキング

それぞれの思考法の特徴や、デザイン思考との違いを解説します。

design-thinking

1 . アート思考

発想を起点にして、オリジナリティのあるアイデアを生み出すための思考法です。

こう説明すると似ているように感じますが、全く違うアート思考とデザイン思考の最たる違いはその『視点』です。ユーザー視点を徹底するデザイン思考に対して、アート思考は開発担当者や企業の発想を重視しています。そのため次のように定義することができます。

  • デザイン思考=買い手目線
  • アート思考=売り手目線

2. クリティカルシンキング

批判的な精神を持ちながら考えを深めていくための思考法です。与えられている問題の前提から疑うといった大きな特徴を持っています。そして、クリティカルシンキングとデザイン思考の大きな違いは、課題解決のアプローチ方法です。あくまでも「客観性」を重視するクリティカルシンキングは、「クリエイティブ」のデザイン思考とは異なります。

3. ロジカルシンキング

論理の流れを明確にし、物事を認識するための手法です。『結論』と『根拠』の2つに分け、論理的なつながりを意識して問題の本質を見極めます。ロジカルシンキングを用いると思考が論理的に整理されるので、話を分かりやすく伝える際にも役立つ思考法です。

ロジカルシンキングとデザイン思考の大きな違いは、課題認識や解決のためのプロセスです。クリエイティブな発想を重視するデザイン思考とは異なり、ロジカルシンキングは論理性を重視します。

ビジネスで活用するメリット

デザイン思考をビジネスで活用すると、さまざまなメリットが期待できます。ここからはデザイン思考をビジネスに取り入れることで得られるメリットを4つ、ご紹介します。

1. 柔軟な発想が習慣化する

デザイン思考を活用することによって、柔軟な発想で仕事を進められる習慣が身につくようになります。

デザイン思考で仕事を進める際は、基本的にメンバーと意見を交換しながら進めていきます。自分では考えられなかったさまざまな意見を見聞きするようになるため、より柔軟な発想での仕事が可能となります。

2. アイデアが生み出しやすくなる

デザイン思考では、とりあえずアイデアを出してみるといった思考が重要です。そのため、失敗を恐れずにアウトプットする習慣が身に付きやすくなります。そのことがきっかけで、これまでにない新しいアイデアの創出にも繋がるでしょう。ちょっとしたアイデアが、企業の躍進に繋がることにもなります。

3. コミュニケーション能力の向上

コミュニケーション能力が上がったり活発になることも、メリットです。柔軟な発想が習慣となり、アイデアが生みやすくなると、アプトプットする機会も増えます。アウトプットの機会が増えることは、意見交換する環境が整うということになります。

その環境のおかげで、「気軽にアイデアを出し、他の人が意見を言う」「柔軟な発想によってアイデアに深みが出る」といった状況も生まれやすくなるでしょう。

4. 組織強化に繋がる

デザイン思考によって社員が柔軟な思考が出せるになれば、部門やチームなどの組織強化にも繋がります。役職や年齢などに強い抵抗感がなくなり、自由に発言できる環境を整えることで、「会社に貢献しよう」「仕事に邁進しよう」という意識も高まるでしょう。生産性も高まることでしょう。デザイン思考によって個人だけでなくチームや組織が、会社(=事業)の方向性を共有できるのも大きな魅力となります。

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デザイン思考には、ユーザーの視点に立って自社が提供するサービスやプロダクトの本質的な課題やニーズを明らかにし、ビジネス上の課題を解決するための役立つフレームワークがあります。ここからはそのフレームワーク・プロセスを解説していきます。

デザイン思考がビジネスで活用されている理由

デザイン思考はグローバル企業でも取り入れられている思考法です。デザイナーがデザインを制作する思考プロセスを、ビジネスに活用することでイノベーションを起こせると考えられています。

インターネットが日常生活に当たり前のように浸透してきたなかで、これまでの方法では思うような成果が得づらくなってきています。今まで以上に創造的なアイデアが求められるようになりつつあります。その結果、デザイン思考への注目度が高まっています。

デザイン思考の基本プロセス

デザイン思考のプロセスは、アメリカのスタンフォード大学に拠点を置くデザイン事務所が2005年に提唱した以下の5つのプロセスで構成されているものが有名です。

  1. 共感
  2. 問題定義
  3. 創造
  4. プロトタイプ
  5. テスト

1. 共感

デザイン思考の中でも特に大切とされている考え方であり、工程です。

ユーザーがどのような課題や問題を抱えているのか、寄り添いながら理解を深めて問題の核心に迫ります。漠然とした考えではユーザーへの理解は深まりません。

checking

1-1. 観察

ユーザーが何を考えているのか、日常の言動を観察します。SNSなどで考えや思いを発信していれば、数日間の発信を追ってもいいでしょう。発信内容から「なぜこのようなことを言っているのか」と背景を深く考えます。

interview

1-2. 関わる

インタビューやアンケートなどをとおして、ユーザーと直接コミュニケーションをとります。上手なコミニュケーションのコツは「なぜ?」と聞き返すことです。聞き返すことで、ユーザーの真の目的にたどり着くことができます。

2. 定義

共感のプロセスで得た知識を基に、解決すべき具体的な問題を明確に定義します。

得た情報をもとにユーザーが抱えている課題を明確にイメージして、 社内やプロジェクトメンバー同士で議論をしながら制作プロセスを進めるようにしましょう。

3. 創造

新しいアイデアを出すというよりも、これまでのプロセスで生まれたアイデアをより具体的にするために、幅を広げる感覚で行います。アイデアを創造することに役立つ、いくつかのフレームワークを紹介します。

3-1. 代替 – – – 別の手法がないか、視点を変えてアイデアを考える

3-2. 統合 – – – 異なる要素を組み合わせてみる

3-3. 適応 – – – ニーズやトレンド、時代や環境に適したアイデアを考える 

3-4. 変更 – – – サイズや色などを変更してみる

3-5. 削除 – – – 不要と思われる要素を取り除いてみる

3-6. 反転 – – – 逆にしたりして再構成してみる

4. プロトタイピング

アイデアを具体的な形にするためのプロトタイプを作成します。 プロトタイプを作ることで製品の見た目や使用感がイメージしやすくなり、 ユーザー視点を得ることができます。そのため、製品に対して客観的な評価ができるようになります。プロトタイプはプロダクトや課題にもよりますが、以下のような方法で作成します。

story board

ストーリーボード

ユーザーがどのようにプロダクトを使うのかイラストを用いて、プロダクトを使うユーザーのストーリーの絵コンテを作ります。利用するシーンがイメージしやすくなるため、ユーザーの行動や心理にも共感しやすくなります。

paper

ペーパープロトタイプ

文字どおり紙に書き出してシミュレーションします。紙とペンがあればすぐに取り組めて、専門ツールなどの使い方がわからなくても、アイデアの共有がしやすいことがメリットです。

mock-up

モックアップ

プロトタイピングツールを使用して、より実践的なプロトタイプを作成します。多く用いられるのはFigmaやAdobe XDです。共有や改良もしやすいメリットがある反面、ツールの利用法を覚えたり、さらには作成まで時間がかかるデメリットがあります。

5. テスト

プロトタイプを実際にユーザーに試してもらます。そしてフィードバックを集めます。集めたフィードバックを活かすことで、実際のリリースまでに商品やサービスを改善することができます。

問題が指摘された場合はその問題を掘り下げて、商品やサービスをどのように改善すべきなのかの方針が計画しやすくなります。

customer journey map

デザイン思考に使える実践フレームワーク

デザイン思考を実践するためには、フレームワークを使うのも重要です。先ほど紹介したプロセスでいえば、「1.共感」で使うケースが多いです。そこで、デザイン思考の実践に使えるフレームワークを4つ紹介します。

1. 共感マップ

ユーザーの認知や価値観を整理するためのフレームワークです。具体的には、以下の6つのセクションに分けて作ります。これらのセクションに情報を書いていくことで、ユーザーの内面的な感情や外部からの刺激に対する反応を捉えやすくなります。

  • 考えていること/感じていること
  • 聞いていること
  • 見えているもの
  • 言っていること/行動
  • ストレス
  • 得られるもの

担当者間で認識をすり合わせられるのが大きなメリットです。

2. SWOT分析

ビジネスモデルを整理するためのフレームワークです。下記4つの視点で、自社の商品やサービスを客観的にみて、課題や問題点を把握するようにします。

  • 優位点
  • 課題
  • 機会
  • 外的脅威

SWOT分析は改善点が見つかるだけでなく、将来的なリスクを予測できることも大きなメリットです。

3. カスタマージャーニーマップ

ユーザーが自社の商品・サービスに関わるプロセスを可視化します。具体的な活用方法は、以下の2ステップに分かれます。

  1. プロセスとして「認知」「興味・関心」「比較検討」「購入」の4段階を想定する
  2. 各プロセスにおけるユーザーの「思考」「感情」「行動」「課題」などの項目を設定する

ユーザーの購買体験の全体像を把握できるため、デザイン思考ととても相性のよいフレームワークです。

下記に私の個人事務所で使用しているカスタマージャーニーマップを添付します。参考にダウンロードしていただければと思います。

 hs-customer-journey-map (PDFファイル)

4. ビジネスモデルキャンパス

顧客セグメントや顧客との関係、価値提供に焦点を当てるビジネスモデルキャンバスも 重要なフレームワークの1つです。ビジネスモデルキャンバスは、アイデアや課題を具体的なビジネスの形に落とし込むツールとして役立ちます。アイデアを具体的なビジネス戦略へと落とし込むことができ、イノベーションの実現を加速させることができます。

まとめ

デザイン思考はデザイナーやクリエイターのためにある、というわけではありません。会社やプロジェクトの経営・推進に大いに役立つ手法です。個人にも組織にも、役立つ手法であり思考法です。

デザイナーもクリエイターも、デザインやクリエイティブを作る前に、どのような形にするか、どのような配色にするか、どのような機能を持たせるかを緻密に設計しています。ニーズや目的を考える、ユーザー視点を考える、購買後のアクションを考える、などの設計順序をビジネスに取り入れたものがデザイン思考です。

そのため、デザイン思考を自社ビジネスに取り組んで、事業の発展にしていく傾向はこれからも益々高まっていくでしょう。今回の記事が参考になれば嬉しく思います。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。